
クマにとって豊かな森が増え、その結果としてクマが増え、獣害も増えてきていると田中さんは推測している。
一方、クマの被害が増えている理由の一つによく挙げられるのが、狩猟者の高齢化と減少だ。しかし、狩猟者数のピークは1970年代の約50万人で、50年代は約10万人。現在の約20万人よりも少なかったこともあり、田中さんの見方は懐疑的だ。
「緑の回廊」はクマの道
人口が密集している市街地に出没する「アーバンベア」も問題になっているが、いずれは大都会にもクマが現れると、田中さんは警告する。
「すでに札幌や秋田、盛岡、仙台などの市街地にクマが出てきている。そのうち東京23区内に現れても不思議ではありません。足立区ではシカやイノシシが目撃されました。順番からいえば、次はクマだな、と思うんです」
都市部に自然公園が整備され、川べりの堤防に木が植えられると、野生動物はそれに沿いながら移動し、都市に入ってくるようになる。
「人と野生動物の共存を目指す『緑の回廊』という言葉はきれいですけれど、あれはまさにクマの通り道でもあるわけです」
自然への愛着と敬意を持つ森林ジャーナリストとして田中さんは、野生動物とどう向き合うべきか、真剣に考えるときが来ていると訴える。
「都市の住民がクマを単に『かわいらしい動物』ととらえて、のほほんととしていると、そのうちガツンと痛い目に合うような気がします」
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)

