広葉樹が育つ「針広混交林」化したスギの人工林(大分県)=田中淳夫さん提供

「真っ暗」ではない人工林

 ところが、林業関係の仕事で全国の人工林を歩くようになると、その考えが間違いであることに気づいた。

「人工林というと、林床が薄暗くて草も生えない『森林砂漠』のようなイメージを持つかもしれませんが、実際にはスギやヒノキだけの人工林は全体の2~3割しかありません」

 植林が盛んに行われたのは昭和30~40年代。森林の成長に応じて、樹木の一部は伐採される。これを「間伐」という。間伐が行われると日光が地表に届くようになり、幹や根が太く成長する。さらに下草が生い茂り、土砂の流出を防ぐ。

「全く間伐が行われなかった森の中は『真っ暗』という感じになりますが、よく目にするのは植林して10~20年くらい間伐を行った後、放置された人工林。そこにはスギやヒノキ以外の木がいっぱい生えている」
 

 林野庁によると、高度経済成長期の1960年に1万2000円だったヒノキ中丸太は80年に約8万円、1万1300円だったスギ中丸太は約4万円に上昇した。しかし、最近はピーク時の3分の1から4分の1程度の価格で低迷。苦労して木を育てても割に合わないために間伐をやめてしまい、人工林の多くが放置されることになったという。

 間伐された人工林には、ヤマブドウやノイチゴなどの植物が生い茂る。さらにその状態が放置されると、針葉樹と広葉樹がまざった林へと変わっていく。

 そんな林が、クマにとってはが絶好のすみかになった。
 

スギやヒノキの樹液は、クマのごちそうでもある。このように樹皮が剥がされた跡は「クマハギ」と呼ばれる=岐阜県、田中淳夫さん提供

クマにとって「豊か」な里山

 さらに中山間地では、林業の衰退とともに高齢化、過疎化が進んだ。

 人里近い森林は、かつては建築材や燃料にするため、明治以降は西洋式の植林や戦争のために頻繁に伐採されていたため、野生動物にとって住みよい環境ではなかった。

 それが現在は耕作放棄地となり、やぶになり、森林になっていった。

「収穫されずにほったらかしにされたカキやクリがクマを誘因すると言われますが、竹やぶになった耕作放棄地も多い。クマはタケノコを好んで食べます。動物目線で農山村を歩くと、エサが十分にあることを感じます」
 

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豊かな森が増え、「道」も伸びて