卓上コンロを持たずに温めた鍋をテーブルに運んで食べる人や、土鍋を持たない人がたくさんいることがなんとも新鮮だった。お酒好き、もてなし好きの白央さんらしい「発見」もあった。
「お酒を飲まない人って、長々と鍋をつついたりしないものだったんですね(笑)」
本書を出した後で、包丁やまな板は持たずに鍋料理を作る人にも出会ったという。確かにスーパーで売られているカット野菜と薄切り肉を使えば、おいしい鍋を楽しむことも充分可能なのである。
「とてもやりがいのある仕事でした。皆さんの言葉の使い方が新鮮だし、しかもその人が作る鍋にも共通するものがあると感じることが何度かあって。この連載はできるだけ長く続けていきたいですね」
白央さんはこれまで日本的な完璧主義を反映したような「料理とはこうあらねばならない」という思い込みから人々を解き放とうと願い、執筆活動を続けてきた。本書にはその「出汁」がたっぷりと染みている。
(ライター・千葉望)
※AERA 2023年12月11日号