一見そっけなさそうで、常にユーモアで場を和ませる。撮影中も「『太陽にほえろ!』のポーズね」と応じてくれた(撮影/植田真紗美)
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 12月に公開の映画「市子」で、市子の恋人を演じる俳優、若葉竜也。失踪した恋人を捜す姿は、劇中で強烈な印象を残す。大衆演劇一座に生まれ、小さなころから「チビ玉三兄弟」として、テレビの密着取材が入るほどの人気だった。そこに若葉の居場所はなかった。それでも演じることは捨てられなかった。映画に救われたという思いが根底にある。

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10月23日、午後4時。ミッドタウン日比谷周辺は映画ファンの熱気に覆われていた。「第36回東京国際映画祭」の開幕を告げるレッドカーペットの上を、スターたちが華やかに歩いてゆく。夕暮れの風は、コロナ禍を経てようやく本格始動した映画界を祝福するかのようにあたたかい。

 ワッと歓声が聞こえ、映画「市子」の出演者たちが登場した。主人公・市子を演じる杉咲花(26)、監督の戸田彬弘(あきひろ・40)とともに、若葉竜也(わかばりゅうや・34)がフォトコールに応じている。ブラックスーツにラフなロングヘア。「手を振ってください!」のリクエストに応える杉咲と戸田の横で、後ろ手のポーズをなかなか崩さない。どこか所在なげな姿が「オレ、苦手なんだよね、こういうの……ここにいなきゃダメ?」とつぶやいているようで、思わずクスッとしてしまった。

 俳優・若葉竜也の存在を認識したのは2016年の映画「葛城(かつらぎ)事件」(監督・赤堀雅秋)だ。抑圧的な父(三浦友和)のもとで「いつか何者かになってやる」と悶々(もんもん)と日々を過ごし、無差別殺人事件を起こしてしまう青年・稔(みのる)役。一見おとなしそうで、しかし自意識過剰で身勝手な持論を雄弁に語る姿は、嫌悪とともに観る人自身にも己の黒い淵(ふち)をのぞかせるような、底知れぬ恐ろしさを感じさせた。

 そんな「ちょっとやばそう」な人物像は「愛がなんだ」と「街の上で」(ともに監督・今泉力哉)で一転する。前者では片思いの女性にパシリをさせられても黙々と尽くす青年ナカハラを、後者では下北沢の古着屋で働く青(あお)を、実在するとしか思えない自然な佇(たたず)まいで演じていた。

取材でも撮影でもこちらの求めるものを瞬時に理解し、提示してくれる人だと感じた。監督もする若葉には常にカメラの前と後ろの視点があり、さまざまなものが「見えている」ようだ(撮影/植田真紗美)

幼いころから公演生活 常に居心地が悪かった

 そして「市子」で若葉はまた新たな「顔」を見せてくれた。市子にプロポーズした翌日、彼女に忽然(こつぜん)と姿を消されてしまう恋人・長谷川役。必死に市子を捜すうちに、長谷川は彼女の壮絶な生い立ちと、ある事件を知ってゆく。若葉は言う。

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