会食恐怖症とは、その人の生活だけでなく将来にまで影響する病なのだ。

一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会が行ったアンケート調査では、当事者の62.5%が「学校や家庭における『完食指導』が会食恐怖症の発症のきっかけとなった」と回答している

約5年をかけて自力で改善、きっかけはバイト先の理解

 山口さんが会食恐怖症克服をはじめたのは、高校3年生の時。そもそも内向的な性格が原因で、自分に自信が持てないのが悩みだったという。

「大学に入る前に、自己肯定感を鍛える必要があると感じたので、セルフ・コンパッション(他者を思いやるように自分自身を大切に扱うこと)を実践しはじめました。そのおかげもあって、人前で完食はできなくても、とりあえず大学の新入生歓迎会などの会食には参加できるようになりました」

 入学後、大学の先輩に紹介された飲食店でバイトをはじめた。そこでは全員で賄いを食べる習慣があり、ふと脳裏にバイトを辞めることが浮かんだ。しかし、勇気を出して、会食が苦手なこと、小食であることを伝えると、「大勢での食事は緊張するよね。量も無理して食べなくてもいいよ」と予想外の言葉が返ってきた。

「それまでは『残してはいけない』と思いながら生活していたので、『食べなくてもいい』と言われたことに衝撃を受けました。おかげで賄いで緊張することはなく、少しずつ食べられる量も増えていきました」

 山口さんは、5年ほどかけて会食恐怖症を自力で克服していったが、精神科医などを受診する場合は、薬物療法と認知行動療法のどちらかを選択する(あるいは併用する)のが一般的だ。

「薬物療法は出てしまった症状を抑えることが目的なので、根本的な改善には近づきにくいでしょう。一方の認知行動療法とは、『考え方を変える』訓練をする治療法です。具体的には、会食恐怖症に悩む多くの人が持っている『出された食事はすべて食べなければならない』等の前提を変えるのです。この食事に対する前提条件がなくなれば、『完食しなくてもいい』と思えるようになり、緊張や焦りからくる症状が出にくくなります」

 治療にかかる時間は、人によって異なる上に根気も必要だが、しっかり治療したい場合は、認知行動療法を視野に入れてもいいだろう。

 また、山口さんのように自力で改善したい場合は、ハードルの低い食事行動から挑戦してみるといいそう。

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緊張度30~40%くらいの行動から