2005年に採用された「反国家分裂法」や2022年の習近平主席の発言により、中国が武力行使によって台湾を統一するという論調が強まっているが、はたして本当にその意思があるのか。また、台湾人の思いはどこにあるのか。軍事評論家・田岡俊次氏の著書『台湾有事 日本の選択』(朝日新書)から一部抜粋、再編集して、その本質を説明する。
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中国の「反国家分裂法」は「現状維持法」
中国では、1958年から62年にかけ毛沢東主席が指導した「大躍進」政策の失敗で3000万人と言われる餓死者が出た。1966年から76年まで続いた「文化大革命」で大混乱を起こした中国は市場経済主義に転向し、50年たたぬ間に世界第2の経済大国になり、名目GDPは額面で18兆1000億4400万ドル、アメリカ(25兆4644億7500万ドル)の71%(2022年)、物価の違いを換算した購買力平価では既に1位となっている。
この興隆は清朝中期の康熙、雍正、乾隆と3代続いた有能な皇帝の盛時を思わせるが、当時は「文字の獄」と言われた言論弾圧も起きて史上の汚点となった。
現実主義者、鄧小平氏が政権を握った1978年以来、中国は市場経済、対外開放の道をひた走り、2004年3月に憲法を改正、第13条で私有財産権だけでなく、相続権の保護を定めた。これは共産主義の根幹を否定したものだ。