米国時代の一家。鈴木さんの左側は共同研究者のJ.ハイス・クーネン博士、右側はメンターのケネス・H・ニールソン博士=2014年、ニールソン博士の自宅にて、研究仲間のボー・バーカー・ヨーエンセン博士撮影

ヘンな微生物が、いる!

 実際に採ってきたサンプルを顕微鏡で見ても、微生物はいない。でも、泉の水を1トンぐらいフィルターでこしたら、DNAが採れた。これで「生き物がいるな」とわかった。さらにゲノム配列を決めてみたら、「これ何?」っていうヘンな生物で、自分が間違っているのか、何なのかわからない。もう一回採りに行って分析しても、やっぱり同じデータだし、もう一回行っても同じ。やっぱりヘンな微生物がいると結論づけた。

 生命に必要な遺伝子は1500個程度とされていたのに、この細菌は400個程度しか遺伝子を持っていない。しかも、エネルギー生産に必須と考えられていた遺伝子を持っていないんです。ものすごく変な生物が、常識的に考えると生物がいなさそうなところにいた。こんな驚くべき事実に対して、私が好きに仮説を考えていいんですよ。未知の仕組みでエネルギーを獲得しているんだっていうように。今まで何の仮説も出てないから。これは解放感があって、自由だなと思ったときに、「あ、これが科学の面白さか」って思った。誰も見ていない世界を見た瞬間に、人ってもっと知りたいって思うんだなって思った。

米国の自由な雰囲気

――成功するかどうかまったくわからない研究に取り組んで、思いがけない結果が出たわけですね。

 そもそもこの研究は自分が提案したものだし、失敗しても自分で責任をとればいいだけなんで、気楽じゃないですか。誰も巻き込まないでいいから。だったら、無謀なこともできちゃう。米国の自由な雰囲気がそうさせてくれたのだと思います。

 日本で学生をしていたころは、図1、2、3をイメージして研究しなさい、そうしないと論文書けないですよ、っていうようなことばっかり言われた。論文を書けないと職はないですよ、とも。それも真実ですが、そうすると研究をつい「置き」にいってしまう。アメリカに行ったら、科学ってそういうものじゃない。論文を目的化してはいけないと言われるわけですよ。だって、クレイグ・ベンターが人工生命の研究を、論文を書くためにやっているわけないじゃないですか。

――彼は20年以上前から人工細胞を作る研究をしていて、2016年には「最小のゲノムを持つ人工細胞を作った」と発表しましたね。確かに「論文を書くため」なんかではない。

次のページ 1人で静かにサイエンスしたい