ええ。東京大学の大学院でポスドク(博士号取得後研究員)として植物と微生物の相互作用の研究をしていましたけど、いろいろつらくて、最後は教授の指示と折り合いがつかず、最終的に研究室に行けなくなった。半年ぐらい行けないままで、このまま研究者をやめてしまおうかと考えていました。ちょうどそのころに結婚し、夫が米国のJ・クレイグ・ベンター研究所から誘われたんです。
――ヒトゲノム解読を民間の立場で強力に推し進めたクレイグ・ベンターがつくった研究所ですね。私は彼の話を間近で聞いたことがあります。ヨーロッパで開かれた会議に参加したとき、こぢんまりした部屋で記者会見が開かれたんです。研究者の枠を飛び越えたパワーをビンビン感じました。研究所は米国西海岸サンディエゴにあるんですよね。
「あなたが幸せでなければ」
そうです。いいところですよ。たまたまなんですが、夫を誘ってくれた研究グループに、私が大学院で米航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所(JPL)に2週間留学したとき知り合った研究者が入っていた。彼は米国人ですけど、日本の状況をよく知っていて、私が研究者をやめようとしているのを聞きつけて「アジアでは女性研究者が少ないんだから、やめてはいけない」「あなたが幸せでなければあなたの夫もいい研究ができない」などと励ましてくれた。それで、夫と一緒に米国で研究することにしました。
ところが渡米2カ月後にリーマン・ショックが起こり、私たちのチームの研究費がなくなるというまさかの事態になった。自分たちで研究費を取るしかなく、チームのメンバーがそれぞれ米国立科学財団(NSF)に提案書を書きました。そうしたら、私と夫が書いた提案書だけが2つ採択されて、3年間で億円単位の研究費がもらえることになった。夫は産業技術総合研究所から1年半の予定でアメリカに来たんですけど、予定を変更してそのまま2人ともJ・クレイグ・ベンター研究所の研究員になりました。
私が取り組んだのは、北カリフォルニアの個人所有の山奥での微生物探しです。ジープに乗ったまま川を7つも越えて行くんですけど、そこの泉はpH(水素イオン濃度。中性は7。数字が大きいほどアルカリ性が強く、小さいほど酸性が強い)が12もある強アルカリ性で、「生物なんていない」と思われていた。私の上司も「何もいないかもしれないよ」と言いつつ、わからないから調べてみよう、となった。