写真は「出会いと発見」
「ポートレール」の一つの試みとして、川井さんは昨年9月、北海道小樽市を訪れた。そこには廃線になった旧国鉄手宮線の一部が保存され、観光スポットになっていた。
「ここで半日かけて、約20組の人に『ポートレールというテーマで撮影させてほしい』とお願いしたところ、ほぼ全員が『いいですよ』と、快く応じてくれました。みなさん本当に楽しそうに、思い思いのポーズをとってくれた。人を撮ることに対して萎縮したり、抑制する必要はなくて、こんなに開放的に撮れるんだ、ということを実感しました」
川井さんにとって写真とは「出会いと発見」であり、デジタルカメラは撮影者と撮影相手をつなぐコミュニケーションツールだという。
「写した画像を背面モニターで見せると、みんな喜んでくれますから」
撮影の際には、その人のエピソードを込める、という思いでレンズを向ける。例えば、北海道・釧網線の車内で撮影した写真には満面の笑みを浮かべるシニア世代の夫婦が写っている。
「ところが最初、このお父さんはずっと怒っていたんですよ。せっかく大阪から旅行に来たのに、転んで足をねんざしてしまったそうで、旅行が台なしになってしまったと、自分に対してすごく腹を立てていた。でも、30分くらい写真を撮っていたら、だんだんこの笑顔になった」
浮輪を手にする女性たちの姿もある。
「これは電車の中で浮輪を持っている謎の女子高生たちです。というのも、この写真を写したのは鳥取県の山の中なんですよ。彼女たちの自由さがいいな、と思って、いろいろなポーズをとってもらいました」
形式写真も写すけれど
一方、コロナ禍の数年間は苦痛で、フラストレーションがたまったと、打ち明ける。
「マスク写真は撮りたくないし、撮られたくもないだろう、という気持ちがありました。撮影していても、いまひとつコミュニケーションが深まらなかった。だからこそ今、ポートレールというテーマで撮影している、という気持ちもある」
川井さんもほかの鉄道写真家と同様に形式写真や走行写真も撮影するという。
「でもやっぱり、人の写真を撮るのが面白いし、楽しいんです。他の鉄道写真家と競合しないのもいい。商売にはならないんですけどね(笑)」
(アサヒカメラ・米倉昭仁)
【MEMO】川井聡写真展「PORTRAIL ポートレイル」
ポートレートギャラリー 11月23日~11月29日