子どものアトピー性皮膚炎は、これから出産を迎える妊婦にとっても関心事です。大矢医師はこうした人を対象に、「乳児のアトピー性皮膚炎を早期に治療することの大切さ」を啓発しています。近年、アトピー性皮膚炎を発症早期に治すことが小児の食物アレルギー発症の予防につながることがわかってきたのです。
「ピーナツオイルを常用してピーナツアレルギーになった患者や、小麦成分の入ったせっけんを使用して小麦アレルギーになった患者のニュースを聞いたことはありませんか? 実は食物アレルギーの多くは腸管よりも、『経皮感作』という皮膚からの感作が主なきっかけだったのです」(大矢医師)
正常な皮膚は角質に守られ、外から異物が侵入しにくいつくりになっています。しかし、皮膚のバリア機能が弱い肌の場合、食物アレルゲンなどが皮膚のバリアを通過し、表皮や真皮に侵入します。すると免疫細胞と反応して感作が起こり、その物質に対してアレルギー反応が起こるようになります。これが経皮感作です。
「皮膚のバリア機能の弱い、乾燥肌の赤ちゃんが寝転がったり、ハイハイをしているときに皮膚に食べ物がついたりします。そこでアレルゲンに感作が起こると、その成分が入った離乳食を食べたとき、皮疹が出ることもあります」(同)
バリア機能がしっかりした肌をキープすることで、このようなことが起こりにくくなります。
秋生まれの赤ちゃんはアトピー性皮膚炎にかかりやすい
「生まれてきた赤ちゃんが乾燥肌だなと思ったら、しっかりと保湿を。また、わずかでも湿疹が出たらすぐに皮膚科やアレルギーの診療を得意とする小児科にかかることも大事です」と大矢医師。
「実は空気が乾燥する秋(10~12月)生まれの赤ちゃんはほかの季節に生まれた赤ちゃんよりも湿疹やアトピー性皮膚炎の症状が出やすいことが、富山大学や山梨大学の報告(約10万人の全国エコチル調査)などでわかっています。生まれて間もない、環境に適応しづらい時期に秋冬の乾燥を経験することが、肌のバリア機能の維持に影響を及ぼしている可能性があります。この時期に出産をする人には特に保湿を気にかけていただきたいと思います」(大矢医師)
(文/狩生聖子)
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