シモキタは人中心の街
跡地開発によって生まれた新しい街。と言っても高層ビルはひとつもなく、全国的に知られたチェーン店はごくわずか。木々や草花に囲まれ、低層の建物には個人店や個性的なテナントが集まっている。露天風呂で箱根から運んだ温泉を楽しめる旅館や、学生から社会人までが共同生活を送るレジデンシャル・カレッジ(居住型教育施設)などユニークな施設、保育園や賃貸住宅もある。開発を手掛けた小田急電鉄エリア事業創造部の向井隆昭さんは「街の魅力を高めるための開発」と表現する。
「箱をつくってよく知られたテナントを入れる施設型の開発ではなく、街の人たちの思いを汲みながらこの場所ならではの価値を生み出していくことを目指したんです。私たちはこれを『支援型開発』と呼んでいます」
小田急電鉄が線路跡地の利用計画のベースとなる「下北沢地区上部利用計画」を発表したのは13年。その後、17年に線路街につながる「全体構想」が、18年には「基本計画」が策定された。向井さん自身は15年に下北沢開発プロジェクトチームに参加し、現在まで8年にわたって取り組んできた。
「下北沢には街づくりを自分事として考え、『こうしたい』と熱意をもった人が大勢いました。地元の人と同じくらいの熱量を持って向き合わなければと考え、プロジェクトの初期段階では自分たちの足でとにかく街を歩いて、下北沢の空気を肌で感じるところから始めました」
向井さんらが街を歩いて感じた下北沢の特徴は、「人中心の街」であること。高層の建物が少なく、路地裏が多い。車で通り抜けるのではなく、人が歩きやすい空間。それが人情や人間味にもつながる街──。
それは、地元の人が持つ「下北沢像」と同じだった。(編集部・川口穣)
※AERA 2023年11月13日号より抜粋