春風亭一之輔・落語家

落語家・春風亭一之輔さんが連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今回のお題は「園遊会」。

 人間国宝・先代柳家小さん師匠が生前、園遊会に招かれた。昭和天皇が「落語界のほうは最近どうですか?」とお尋ねになり、師匠は緊張のあまり「ハイ! だいぶ良くなりましたっ!!」と答えたそうだ。膝の具合じゃないんだから。名人もそんな状況では上がっちゃうのね。とても微笑ましいですな。

 今年の秋の園遊会は11月2日だそう。

 招待者の中でこのコラムを読んでいる方はいるだろうか? 会自体はもう済んでると思うので、園遊会に招かれた人はいま周りから聞かれて大変でしょう。「どうだった!? なんか面白いことあった!?」とか。「有名人来てた!?」とか。そらなんか面白いことはあるだろうし、有名人も来てるだろうよ。

 ただどうなんだろう。やっぱり口止めとかされるんですか? 「ここ(園遊会)で見たこと、聞いたこと、起きたことは何人たりとも決して口外してはならない」という書面に血判を押してるかもしれない。テレビの取材も入ってるがそれはごく一部。招待者の数は公表されるが、細かいことはよくわからない。知ってる人は知ってるだろうけど、私には園遊会の情報がなにもない。「園遊会」で検索すれば、「園遊会でのマナー」とか「園遊会の歴史」とか「こんな園遊会はイヤだ」なんて園遊会にまつわるあれこれが出てくるんだろうか。呼ばれることはないだろうが、もし万が一「今年はお前も来いよ。よかったな。待ってるからな。宮内庁より」と矢文が飛んできたら、とりあえず何から支度にとりかかればよいだろう。なんかドキドキしてきた。でもあえて検索はしない。イマジネーションでいく。

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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