大学の役割は教育、研究、社会貢献の3つがある。大学教員が自分の専門分野を解説することも社会貢献の1つである。大学教員は出版物でさまざまな疑問に答えてくれ、考えるヒントを教えてくれる。わたしたちはそれを利用しない手はない。もっとも、難解な用語が多い専門書では、その分野でまったくの素人では歯が立たない。
そこで参考にしたいのが、大学教員が専門分野をわかりやすく解説した入門書や啓蒙書だ。学び方を指南した実用書も出している。そして、その多くは新書として刊行している。ハンディで手に取りやすい。安価なのもうれしい。『言語の本質』はこれにピタリとあてはまる本である。
立命館大教授の千葉雅也さんは、『言語の本質』をこう評している。
「この本はすごい。本当に画期的だと思います。オノマトペ研究をベースに言語と身体のつながり、いわゆる記号接地問題に向かっていくのですが、本書の議論と脳科学、あるいは精神分析をどうつなぐかとか、いろいろな思考の可能性が広がってきます」(中央公論新社による同書の案内)
新型コロナウイルス感染拡大、ロシアのウクライナ侵攻、地球温暖化、物価高騰、少子高齢化制度、外国人の在留資格、ジェンダー平等……。
いま、わたしたちは多くの問題に直面している。こうした問題を読み解き、そして解決するためにはどうしたらいいか。まずは知りたい分野に関する基本的な知識を身につけなければならない。そのためには大学教員など専門家の知見が参考になる。
中央公論新社は、毎年「新書大賞」を発表している。書店員、各社新書編集部、新聞記者など約100人による審査で、もっとも評価が高かった新書が選ばれる。
「新書大賞2023」(2021年12月~22年11月刊行が対象)は、『言語の本質』を絶賛した千葉雅也さんの『現代思想入門』(講談社現代新書)に決まった。同書も約15万部突破と売れており、やはり大学生から支持を集めた。
「新書大賞」上位15位以内の新書著者のうち大学教員は次のとおり。東京大教授が3人いる。渡辺努さんの『世界インフレの謎』(講談社現代新書)、國分功一郎さんの『スピノザ 読む人の肖像』(岩波新書)、牧原出さんの『田中耕太郎』(中公新書)である。