東京都練馬区にある「つむぎ助産所」。アットホームな雰囲気のなか助産師の渡辺愛さんが妊婦と二人三脚で赤ん坊を取り上げる。北区の「みづき助産院」の助産師・神谷整子さんは院を閉めようとしていた──。99%の出産が病院で行われるいま「1%」を選んだ4人の女性と助産師を追ったドキュメンタリー「1%の風景」。監督の吉田夕日さんに見どころを聞いた。
* * *
第2子の妊娠時に知人が自宅出産を選んだと知ったんです。「なぜ?」と聞いたら逆に「なぜ(第1子を)病院で産んだの?」と聞かれてしまった。「つむぎ助産所」の存在を知り「こんな身近に命が生まれる場所があるんだ!」と驚き、そこで次男を出産しました。
予定日に合わせて仕事を調整してもお産が進まず苛立つ私に、助産師の渡辺愛さんは「そういうことじゃないんだよ〜」と「待つ」大切さを教えてくれました。なによりここでは自分が大切にされていると感じたんです。じっくり話を聞いてもらえて、甘えられる。こういう拠り所があると、子育てや人生でつまずいたときも自分の足で立っていける気がしました。その経験から助産師と妊婦たちがここでどんな時間を紡いでいるのかを知りたくて撮影を始めました。
妊婦さんたちは快く全てを見せてくれました。でもお産のタイミングに合わせるのは難しく、4年間で撮影できたのは4人です。「待つ」助産師の大変さを実感しました。妊婦の横に寝ながら命がやってくるときを待ち続ける。それは「待つ」感覚ではないのかもしれません。渡辺さんは「熟す」という言葉を使います。時がくれば、それは向こうからやってくると。
本作は「助産所での出産がいい!」とすすめているわけではありません。実際に妊婦の高齢化でハイリスクな出産が増え、医療介入が必要になるケースもありますから。でも病院で出産する女性にとってもこの1%の風景があり続けることには意味があると思うんです。孤立しがちな現代社会で人とつながり、信頼関係を築くことの大切さがここにはある。人は誰もがこうして産まれ、誰かに大切にされた時間を持っている。そんなことを思い出してもらえたら嬉しいです。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2023年11月6日号