10月25日、ガザ市内で、イスラエル軍の空爆で破壊された建物から死傷者を捜索するパレスチナ人たち(ロイター/アフロ)
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 ネタニヤフ政権とハマスは、表面上は対立していても「利害が一致」しているという。どういうことなのか。戦史・紛争史を多面的に分析する研究家・山崎雅弘氏に聞いた。AERA 2023年11月6日号より。

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──イスラエル軍のガザへの地上侵攻が間近に迫っているようです(10月24日現在)。

 10月7日にイスラム組織ハマスの奇襲攻撃を受け、イスラエルでは民間人を中心に約1400人が死亡し、約220人が拉致されました。前例がないほどの犠牲者を出した以上、イスラエルのネタニヤフ政権は、ハマスに打撃を与えず事態を収束させれば国民の支持を失い、政権維持は難しくなります。明確な戦果を得るまで、軍事行動を継続するでしょう。

──イスラエルは2008年と14年にも、ガザへの地上侵攻を行っています。過去2回と、今回の違いは何でしょうか。

 ハマスがイスラエル領内にロケット弾を撃ち込むだけでなく、戦闘員をイスラエル領内へと組織的に侵攻させ、大勢の市民を殺害したり誘拐して人質にしたのは今回が初めて。イスラエル政府と軍にとって、ハマスの軍事的脅威は飛躍的に増大し侵攻で殲滅(せんめつ)する動機が強まりました。

より長期化することも

──地上戦になれば、さらに多くのガザ市民が犠牲になります。

 08年と14年の地上侵攻でも、市民が多数犠牲になりましたが、今回のイスラエル軍の侵攻はより徹底的な打撃をハマスに与えることが目的となり、巻き添えで死傷するガザ市民の数も増える可能性が高いでしょう。

 イスラエルは、こうした人的被害に対する国際的な批判を、「自衛権」を理由に無視してきました。イスラエル市民の安全を脅かす軍事的脅威を取り除くための行動で、ガザ市民の被害の責任はハマス側にある、と。

──今度の地上侵攻はどのくらいの期間続くと見ますか。

 08年と14年の地上侵攻の際は、ともに約1カ月でイスラエル軍が一定の戦果を上げたとして終了しました。しかし今回は、ハマスが拘束した200人以上の「人質」という新たな要素が加わったことで、イスラエル軍の行動はより長期化する可能性があります。ただ、イスラエル兵の多くは予備役であり、紛争の長期化は、国内経済に心理的・物理的な悪影響を及ぼすと考えられます。ネタニヤフ政権は、国民から批判されるのを避けるため、可能な限り短期間の集中的な攻撃でハマスの拠点に打撃を与え、明確な軍事的成果を国民に示せる状態を作った上で、撤退するでしょう。

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