テルフォードは経営者としての出発点だ。人間は『源流』に遡る機会を持つことが明日へ向けていいことだ、と実感した。また海外で住むなら、ここだ(撮影/狩野喜彦)
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 日本を代表する企業や組織のトップで活躍する人たちが歩んできた道のり、ビジネスパーソンとしての「源流」を探ります。AERA2023年10月30日号では、前号に引き続きリコーの山下良則会長が登場し、「源流」となる英イングランドにあるテルフォードの工場を訪れました。

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 英イングランドにあるテルフォードは新しい街で、日本のハイテク企業が誘致されている。リコーは、1983年に複写機をつくるリコーUKプロダクツを設立、85年に操業を始めた。従業員は約900人、フランス工場と並ぶ欧州の生産拠点だ。

 95年2月、入社して約15年で着任した。経営計画を担うナンバー2の管理部長を7年務め、その間、山下良則さんがビジネスパーソンとしての『源流』になった、とする体験があった。

 ことし7月、テルフォードの工場や家族と暮らした街を、連載の企画で一緒に訪ねた。妻の雅子さんも同行した。

 企業などのトップには、それぞれの歩んだ道がある。振り返れば、その歩みの始まりが、どこかにある。忘れたことはない故郷、一つになって暮らした家族、様々なことを学んだ学校、仕事とは何かを教えてくれた最初の上司、初めて訪れた外国。それらを、ここでは『源流』と呼ぶ。

 ロンドンから北へ車で3時間余り。牛の放牧地の中を走る高速道路を出て森を抜けると、社屋が現れた。

 28年前、日本経済がバブル崩壊で低迷するなか、成長著しい中国で工場の立ち上げを手伝い、次は英仏2工場を合理化する課題を背負って、寒風が吹くイングランドへきた。

英仏従業員に聴き出した答えは本社内の声と違った

 着任すると、工場をみて歩きながら、従業員たちの要望や不満を聴いて回る。仏工場へもいった。複写機は、80年4月に入社して東京都大田区の複写機事業部資材部へ配属されて以来、ずっと縁がある。だから、問題点は、すぐにつかめた。本社には「欧州に、生産拠点は二つも要らない。統合するべきだ」との意見が、強かった。でも、出した答えは、違う。

 確かに英仏でつくる製品に同じ機種があったし、調達する部品も重複して非効率だ。だが、英仏では文化も言葉も別なように、ものづくりでも得手不得手がある。フランスの従業員は、決まったことを確実に反復できる。イギリスの従業員は、工夫を加えるが、同じことをこつこつとやるのは得意でない。

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