池田暁子はコミックエッセイの名手である。しかし、生活者としてはダメダメだ。そんな彼女が達人の知恵を借りつつ脱ダメ生活を目指すのが『片づけられない女のためのこんどこそ! 片づける技術』(2007年・文藝春秋)にはじまる「人生立て直し」シリーズで、片づけ、貯金、ダイエット、時間管理、はては結婚生活にいたるまで私生活を開陳してきた彼女が9年目にしてたどりついたのはキッチンだった。
『もう食材をダメにしない! お料理&キッチン整理術!』で、このたび池田暁子が目指すのは〈残りものでぱぱっと おいしいお料理をこしらえる〉こと。目的達成への道は遠い。なにしろ片づけが大の苦手だった彼女は料理も苦手。レパートリーは〈焼いた肉(焼き肉のタレで!)/気まぐれ肉野菜炒め(家族に不評!)/切ったキュウリ(マヨネーズ添え)/切ったキュウリ(もろみ添え)/卵かけごはん/おにぎり/カレー(ごくたまに気が向いたら)/肉ジャガ(同上)/みそ汁(インスタント)〉。以上終わりだ。
 それでもレシピ本と首っ引きで作ってみた「豚のしょうが焼き」は美味だった。が、毎回レシピを見るのが面倒くさい。彼女は達人の言葉に衝撃を受ける。〈レシピは見ませんが その代わり 必ずちょこちょこ味見しながら作ります〉。彼女は味見をしていなかったのである。〈あらためて味見してみて思ったんですが…〉〈お米って…洗ってから炊いた方が美味しいですね?〉。そ、そこからかい!
「ワタシはちゃんとした主婦」と自負する人はあきれ返るだろう。でもね、世の中、誰も彼もがちゃんとなんかしてないわけよ。世の片づけ本やレシピ本の大半は、その道の達人やカリスマが(自慢タラタラに)伝授する秘訣集である。池田暁子はまったく逆だ。ダメ生活者だからこそわかる小さな工夫、心の機微。ひとり暮らしの若者や、家事を一切したことのない男性にもオススメ。コンプレックスから解放されます。

週刊朝日 2015年6月26日号

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