一緒に夜空を見上げるシーンは、3つのコマを1つにしている。言葉で説明したくないような場面は、情感たっぷりに描く。『あことバンビ』第44話より

一人行動だから育つ、観察眼

 『あことバンビ』の連載がスタートしたのは、日本国内で初のコロナ感染者が確認された(20年1月16日)ころだ。新型コロナウイルスが騒がれ始め、外出もままならないままストレスと脅威を感じた人が多かっただろう。しかしHERO氏は、コロナ禍でも漫画家としての生活に大きな変化はなかったという。取材に赴くタイプの漫画家ではなく、自分の中でストーリーを生み出すため、ずっと自宅でマンガを描いていた。外出できないのがストレス!という感覚もなかった。

「基本、一人行動です。話し相手がいないことで、もしかしたら観察眼が育つのかもしれません。電車で派手なファッションの人を見たら、今日は何があるのかな? どういう人なのかな? どんな人生を送ってきたのかな?など、2駅ぐらいの間、ずっとその人について考えてしまったりします」

 漫画家になろうと思ったことも、そして今も自分が漫画家だと感じたこともあまりない。個人サイトを立ち上げた時に、マンガだったら気軽に読んでもらえるかもと思い載せてみたら、感想が届いた。「読んでくれている人がいる!」と嬉しくて、今にいたるという。

「子どものころから『らんま1/2』(高橋留美子著)が愛読書なのですが、このマンガを女性が描いていることに驚きました。当時、女性漫画家は少女マンガを描くイメージがあったので、女性でも男性の気持ちや身体の動きが描けるんだ、こんな心躍るようなマンガを描ける人がこの世にいるんだ!と思ったそのときの気持ちは、今も心にずっとあります。『あことバンビ』は私の作品の中でも集大成だと思いますし、私の作品を読んだことがない人には一番読んでほしいです」(朝日新聞出版・長谷川拓美)

■HERO氏プロフィール
漫画家、イラストレーター、デザイナー。自サイトで発表した『堀さんと宮村くん』が2008年にスクウェアエニックスから書籍化。シリーズ累計700万部を超えるベストセラーとなる。その他の作品に『浅尾さんと倉田くん』『雨水リンダ』など。

公式HP「読解アヘン」

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