漫画家HERO氏の『あことバンビ』
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 2020年1月、漫画家HERO氏のWEBで『あことバンビ』の連載がスタートした。22年秋には書籍として発売になり、10月20日発売の8巻で完結した。編集者からX(旧Twitter)のダイレクトメッセージが届き、「書籍にしませんか?」と尋ねられたときには、本当に嬉しかったと語るHERO氏。誰も傷つけず、優しくたゆたうような物語は、どうやって生まれたのか……。

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 高校を中退して小説家として活動し始めた小鹿かのこ(あだ名:バンビ)は、家賃1万5千円の事故物件に入居する。しかしそこには、自分のことを何も覚えていない女子高生幽霊の「アコ」が憑いていた!? アコとバンビの奇妙な同居生活は、周囲の人々にも影響を与えていく??。この『あことバンビ』は、最後までの話を作ってから100話として描きあげたとHERO氏は話す。

「こういうラストを迎えさせたいから、それまでの話をどうしようか、と。まず1話目と、ざっくりとした中間の物語と最終話を考えて、その間をうまく埋めるように描いていきました。漫画家の中には、描きながらストーリーの方向性が変わっていく方もいるかもしれません。『あことバンビ』は、話の最後は自分で最初に決めて、そのゴールに向かって描いたほうがいいと思いペンを進めました」

純粋な恋愛物語ではない

 読み進めていくと、アコは女子高生である山城亜子の生霊だとわかる。初めは夜になると現れるアコだったが、朝になっても消えなくなったり、実際に靴が履けて歩けたりもする。

「『あことバンビ』は純粋な恋愛物語ではないと思っています。アコとバンビのどちらかが相手に近くなるっていうのが、幸せなんだろうと思いました。アコを完全に人間にしてしまうと、山城さんとのポジションが難しくなり、物語を描き進めるうえでいろんなことが不自由になってしまう。不自由さは残しつつも、二人が一緒に暮らせるにはどうしたらいいのか、考えながら描いていきました」

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女の子が“バンビ”って呼ぶのが…