誰かをモデルにして描くことはしない。マンガに出てくる人物は、HERO氏の中だけで作り上げる。そういう風に描いていくと、周りのキャラクターもリアルになってくるという。
バンビというキャラクターは女性にも男性にも普通に愛されて、透明感もある。人は生きていれば、他人を妬んだりひがんだり、比較して落ち込んだり、マウンティングをしたりしてしまうこともあるだろう。しかし『あことバンビ』の主人公たちは、「人が嫌がることをしない」。特に、男性のキャラクターたちの日々は、とても淡々と描かれている。
「嫉妬してしまうのが人間かもしれませんが、マンガの人物全員がそうなってしまうと話自体が暗くなってしまいますよね。多分、私は知らず識らずに人を妬んでしまうキャラクターと、気持ちが大らかなキャラクターとを分けて描いているんだと思います。バンビの性格を一言で表す言葉として、“無意識に毎日を大事に生きている”。大事なものがわかっていて、それを失わないように生きているんです」
依存せず、攻撃したりもしない。『あことバンビ』を読むと、家族や兄弟のほどよい距離感が心地よく感じる。しかし、友達の悪口や陰口を言うシーンも描かれている。それはHERO氏が実際に目にしたり、人から聞いたりした話から生まれていったのだろうか。
「今回の取材の質問案を見て初めて、自分の描くマンガは描写が生々しいんだって思いました。自分が高校生の頃に教室で感じていた空気みたいなものを、覚えていたのかもしれません。ただ、自分がいじめの被害者やいじめに加担したといった経験をしたかと問われると、それは違う。多くのマンガやドラマなどのシーンから影響を受けたのだと思います」
その年代特有の、独特な空気
無視されている子がいたとき、それを知りながら自分も声をかけなかったりしたら、いじめの助長になるかもしれない。でも、無視の対象はすぐに変わって、翌週になったら別の子が孤立しているのを目撃した経験はないだろうか。