小西聖子(こにし・たかこ)/専門は臨床心理学、トラウマケア。精神科医・臨床心理士として、性暴力被害などに遭った人たちの治療を続ける

呼吸器疾患も増える

 小西さんによれば、性暴力を受けるとPTSDのほかにも、現実感がなくなったり、特定の記憶が思い出せない解離の症状や、うつの症状が出たりすることもあるという。

「さらに、トラウマの体験は身体症状にも影響を与えます。PTSDを発症している人は呼吸器疾患や喘息、高血圧、糖尿病なども増えることがわかっています。こうしたことからも、性被害がどれだけ深刻かということがわかります」(小西さん)

 喜多川氏から被害を受けたのは、10代の少年に集中していた。

 小西さんは言う。

「子どもはトラウマに対して弱い存在です。相手のパワーを強く感じるし、対処のすべを知らないからです。子どもが親からの虐待に遭いやすいのは、親の言うことを聞かなければ生き延びられないのと同じです」

 そして人格形成が発達途上の子どもが性被害に遭うと、被害の影響が、その後の発達の中に巻き込まれていくという。被害に遭った時、抵抗できずその場で凍りつくが、その時に養われた対処様式が大人になっても引き継がれ、何か怖いことがあっても、凍りついて反抗できなくなるなどが一例である、と。

「男性と女性を比べると、男性の方が性被害のPTSDの発症率は高くなるというデータもあります。断れたのではないか、抵抗しなかったのは同意があったのでは。そんな性被害に対する偏見は女性にもありますが、男性被害者の場合はより強い。その結果、誰にも相談できずに孤立し、メンタルヘルスが悪化しています」(小西さん)

(編集部・野村昌二)

AERA 2023年10月30日号より抜粋

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