10月17日、ガザ地区で。死傷者がいないか瓦礫の下を捜索するパレスチナ人(写真 ロイター/アフロ)
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 イスラエル・パレスチナ情勢が緊迫化するなか、日本政府の対中東政策が変化しているという。どういうことなのか。日本エネルギー経済研究所中東研究センター長・保坂修司さんに聞いた。AERA 2023年10月30日号より。

【写真】瓦礫の上でうずくまるパレスチナ人の少年

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 イスラム組織ハマスが、イスラエル領内に侵入し、民間人を襲撃した日から4日後の10月11日、外務省の岡野正敬事務次官は、イスラエルのコーヘン駐日大使と会談し、「ハマスなどのパレスチナ武装勢力によるテロ攻撃を断固として非難する」と発言しました。翌12日には、松野博一官房長官も記者会見で「今般のテロ攻撃を断固として非難する」と述べています。

「テロ」という言葉を使ったことに、私は非常に驚きました。ハマスの攻撃がテロであることは間違いはありませんが、言及することによって、日本の立ち位置がイスラエル寄りに大きく踏み込むことになるからです。

 岸田首相は就任後、エジプト、サウジアラビア、UAEなど中東を歴訪していますが、全てエネルギー絡みの目的であり、パレスチナ問題に積極的に関与しようとした形跡はありません。襲撃直後、岸田首相のX(旧Twitter)の投稿は「非難する」という表現に留まっていたところからの「テロ」という言葉です。日本政府の対中東政策がこの数週間でドラスティックに変化したことを感じています。

米国はイスラエル支持

 今からちょうど50年前の1973年10月、第4次中東戦争によって第1次オイルショックが起きました。同年11月、第2次田中角栄内閣の二階堂進官房長官は「イスラエルが1967年戦争の占領地から撤退しない場合は、イスラエルとの関係を再検討する」との談話を発表しています。イスラエルとの「断交」もあり得るという強いメッセージで、それまで中立だった日本の対中東政策を大きくアラブ諸国寄りに変えた出来事でした。そのこともあわせて考えると、今回の日本政府の変化が際立つのではないでしょうか。

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古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

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