夫婦別姓制度導入の機運が高まった90年代半ばと比べて、2023年の今の方がむしろ自民党内に反発や嫌悪感を示す空気が強いのを見て、安倍晋三政権の罪を意識せざるを得ない。

 夫が働き、妻は家で子育て、男女の役割分担を求める古い価値観や家父長的な家族観が、今も自民党に根強く残る。第2次安倍政権以降は、自民党内は安倍氏と思想を同じくするガチガチの保守派が力を増し、世界の潮流や時代に逆行して、保守的な傾向がむしろより強まっている。

 23年2月に、LGBTQなど性的少数者や同性婚をめぐり差別発言をした岸田文雄首相の秘書官がスピード更迭された一件も、そうした自民党の古い価値観を想起させた。

 経産省出身の荒井勝喜秘書官の「隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ」という発言は人権意識の欠如極まりなく、「ついに自民党内だけでなく、首相官邸で働く官僚にも伝播してしまったか」(経済官庁の官僚OB)との声があった。

 岸田首相は自民党の有志が21年4月に設立した「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」の呼びかけ人の1人だが、同年10月の首相就任後は夫婦別姓に明確な態度を表明していない。同年10月の総選挙時に日本記者クラブで行われた党首討論では、選択的夫婦別姓を実現する法案とLGBTの理解増進法案を翌年の通常国会に出すことに賛成かどうかの質問に対して、岸田首相だけが手を挙げなかった。

 共産党の小池晃書記局長が、「2年前の参院選挙の時の党首討論で選択的夫婦別姓に賛成か反対かを問われて、安倍首相だけが賛成に手を挙げなかった。その光景と重なって見えて、岸田政権はやはり『第3次安倍政権』だなということがよくわかった」と発言していたのは正鵠を射ている。

 岸田氏は同性婚についての国会答弁で「社会が変わってしまう」と否定的な姿勢も示している。党内リベラル系の宏池会ながら、保守派の顔色をうかがい、宗旨替えしたのか。いずれにしても、社会の多様性や人権についての確固たる自身の考えがないのだろう。

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