「軍備を増強しても、それを使わないという外交をセットでやらなきゃダメなんだ」。日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増し、岸田政権が防衛費を膨らませている中、「軍人」梶山静六氏の言葉は重みを増す。小塚かおる氏の新著『安倍晋三 VS. 日刊ゲンダイ 「強権政治」との10年戦争』(朝日新書)から一部を抜粋、再編集して紹介する。(肩書は原則として当時のもの)
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自民党総裁選に出馬した3人を、田中真紀子衆院議員が「凡人」「軍人」「変人」と評したことがあった。「凡人」は小渕恵三元首相、「変人」は小泉純一郎元首相。そして、「軍人」は梶山静六元自民党幹事長である。
梶山氏は、その政治手法から「武闘派」「剛腕」などの代名詞があり、周辺事態などの有事法制にも積極的だった。しかし一方で、常々「有事法制は外交とセット論だ」と訴えていたという。ジャーナリストの鈴木哲夫氏は番記者として当時、直接、梶山氏本人から話を聞いた。ゲンダイ(2022年5月13日発行)でこう語っている。
「梶山氏は特攻隊の生き残りでした。お兄さんは戦死し、お母さんは三日三晩泣き通しだった。その姿を見て、『もう二度と戦争はやっちゃいかん』と思ったそうです。そしてこう続けました。『政治は時代に応じて現実対応しなきゃならない。安全保障もそうだ。有事法制は必要だ。自衛隊の権限も強めなきゃいけない。でもな、絶対にセットでやらなきゃいけないのは、その法律を行使しないための外交だ。軍備を増強しても、それを使わないという外交をセットでやらなきゃダメなんだ。それが政治だ』。翻って、いまの自民党の議論や提言は、防衛力の強化ばかりです。『行使しなくてもいいための外交論や日本の役割』についての議論が抜け落ちているところに危うさを感じます」