かつて自民党には反戦論者がたくさんいた。太平洋戦争の経験者もいたし、何よりも平和憲法を尊重し、国民生活を豊かにすべく努力してきた。
後藤田正晴官房長官は1987年、米国が機雷除去のために海上自衛隊のペルシャ湾派遣を要請した際、敢然と反対した。中曽根康弘首相は前向きだったが、後藤田氏は「これは戦争になる」「国民にその覚悟があるか」と突っぱねた。
元首相の宮沢喜一氏は、1995年の著書『新・護憲宣言』(朝日新聞社)で〈われわれは、将来に向かって自由の制限につながるかもしれないどんな兆候に対しても、きびしく監視する必要があります〉と書いている。若手大蔵官僚として戦争を知っている宮沢氏は「兆候」の段階で止めないと、取り返しのつかないことになると懸念し、「再び歴史の魔性に引きずられることがないために」と次の世代にこの著書を残した。
しかし、今の自民党はどうだ。
あの田中角栄氏が危惧した通りになってしまっている。一兵卒として従軍経験がある田中氏は、次のような言葉を口にしているのだ。
「戦争を知っている世代が政治の中枢にいるうちは心配ない。平和について議論する必要もない。だが戦争を知らない世代が政治の中枢になった時はとても危ない」