天草四郎。有名な人であるがイメージが先行しすぎている。キリシタンで、美少年なのに反乱軍の総帥。あらゆる妄想が渦巻く。しかし「実際の天草四郎」が、そんなキラキラしてるばかりであるはずがない。そこでこの本を手にとって「正体」を知ろうと思ったところ……。
正体どころか、私は天草四郎のことなど何も知らなかったということを知った。いやー、けっこう自分は歴史好きで、知ってるつもりだったのになあ。正体、と銘打たれると「天草四郎は実は……!」みたいな扇情的内容なのかと思わされますが、読んでみたら、「天草四郎の実体はわからない」のである。今に至るも謎。天草四郎の首と言われるものもいっぱいあってどれが本物なのか、いちおう当時本物認定されたものはあるものの、それが本当なのかわからない。
そして、そもそも天草四郎なんていなかったかもしれない、らしいではないか。それは残念、妄想のネタが……と思いきや、「四郎殿」と呼ばれる「少年の総大将」はいることになっていて、そして四郎殿のまわりには、四郎殿と同じような年格好の少年たちがいっぱいいる。その少年たちははっきりと目撃されている。四郎の首と言われるものもほとんどがその少年たちのものらしい。
この少年たちを使って、イメージ戦略で「天草四郎という総大将の存在」を打ち出していた「本物の中心人物(非少年)」がいた、というのが、古文書などを読んでいると自然に導き出される真実のようなのだ。いや、四郎が実在してなくてもこの戦略にはさらに妄想がふくらむ。
もっと気になるのは、「島原のキリシタンを弾圧しまくって殺した者を塩漬けにして土蔵に保存」してた「島原藩主松倉勝家」で、いくらご禁制のキリシタンだからって、その弾圧加減が異様なのだ。そのあたりの断片が最初のほうに書かれていて、さらに妄想欲はふくらむ。
※週刊朝日 2015年6月19日号