「神様」の命令に支配され、食事をとることができずに痩せていく。家族も苦しい時間を過ごした (c)もつお/KADOKAWA 『高校生の娘が精神科病院に入りバラバラになった家族が再び出発するまで』から

わがままじゃなくて私は病気だったのか

 作品からは、精神科病棟に入院することへの戸惑い、病識を持つことの難しさや、回復につながるさまざまなきっかけが伝わってくる。

 もつおさん自身が、入院には必死で抵抗したという。

「家族から『入院しかない』と説得されても、『見捨てられた』と涙が止まらなかった。精神科病棟は未知だったし、さまざまな状態の患者さんを見て『怖い』という気持ちもあったんです」

 心療内科で診断がついても入院しても、自分が病気とは思わなかった。一方で、親に土下座をされても状況が悪くなっても食べないのは、「自分がわがままだからでは」とも思っていた。病識を持てたのは、入院してしばらくしてからだ。

「自分のことも娘のことも責めたらダメ」「無理に原因探しをしなくていい」。同じ病気の娘を持つ人のこんな言葉に救われた(c)もつお/KADOKAWA 『精神科病棟の青春 あるいは高校時代の特別な1年間について』から

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摂食障害で入院中の大学生の女性と初めて話した時に、『何食べて生きてた?』『私、ガム』『私、海苔』とか、楽しく話せたんです。彼女に『同じ病気の人と会えてよかったな』と言われて、『そうか、私は病気だったのか』と腑に落ちました。私はその人をわがままと思わなかったし、闘病している他の患者さんもわがままじゃないと思った」

「先が見えない」と思った入院は、結局、大きな転機になった。受けた治療も合っていて、結果として「命をつなぐことができた」。

 体重が少し増え、病棟から通学しているとき、友人に言われた言葉がある。

 ──頭がおかしくなって、入院したわけじゃないんだよね?

「悪気はないとわかったけど、摂食障害のことを言っているのだと思ったとき、ショックでした。病棟の人たちが頑張って闘病している姿を見ているから、『頭がおかしい』の一言で片づけられることに、怒りもありました」

 自身が最初は「怖い」と感じたように、馴染みのない多くの人にとって精神疾患やその患者は「怖い」ものかもしれない。物語の終盤、主人公の父親が精神疾患に拒否反応を示し、退院する娘に「忘れなさい」「あんなところに入院させるのは本当に嫌だった」と言うシーンがある。

 それに対し、主人公ははっきりと否定する。「そんなふうに言わないで」「変なんかじゃない」。それは、いまのもつおさんの思いにつながるものだ。

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