哲学者の東浩紀氏が、現代社会を生きる術を記した著書『訂正する力』(朝日新書)を刊行した。東氏の言う訂正する力とは、聞く力であり、持続する力であり、老いる力であり、記憶する力である。しかし、社会全体に信頼が失われ、みなが安直な「正しさ」に飛びついているが故に、そんな力の発揮が阻まれている。そしてこの状況を象徴するのが「論破力」という言葉だと東氏は解説する。同書から一部抜粋、再編集し、訂正する力と対極にある、東氏が考える「論破する力」について紹介する。
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論破力にどう対抗するか
論破力といえば、2ちゃんねる創設者のひろゆきさんです。彼は日本でいまもっとも影響力のある言論人のひとりですが、相手の矛盾を突くのがうまく、メディアで「論破王」として盛んにもてはやされています。
論破ブームにより、どんな議論でも「勝敗」で判断することが一般的になってしまいました。みな絶対に謝れなくなっているし、意見を譲って妥協することもできなくなっている。これは2010年代後半からSNSで顕著に見られるようになっていた傾向ですが、コロナ禍でのひろゆきさんの活躍によりネット外にも一気に広まりました。
論破力が基準の世界では、訂正する力は負けてしまいます。訂正した瞬間、相手から論破したと言われてしまうのですから。では、どうしたらよいでしょうか。