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 分断が深まる現代日本において、生きる術を哲学者・東浩紀氏は「訂正する力」と捉える。この名を冠した新刊『訂正する力』(朝日新書)から一部抜粋、再編集し、なぜこの力が今必要とされているのかを考える。

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 日本にいま必要なのは「訂正する力」です。

 日本は魅力的な国です。けれどもさまざまな分野で行き詰まっています。政治は変わらず、経済は沈んだままです。

 メディアは大胆な改革が必要だと叫びます。けれども実際にはなにも進みません。人々は不満を募らせています。

 もう日本はだめなのでしょうか。ぼくはそうは思いません。ただ、そこで必要になるのは、トップダウンによる派手な改革ではなく、ひとりひとりがそれぞれの現場で現状を少しずつ変えていくような地道な努力だと思います。

 そのような地道な努力にもやはり哲学が必要です。小さな変革を後押しするためには、いままでの蓄積を安易に否定するのではなく、むしろ過去を「再解釈」し、現在に生き返らせるような柔軟な思想が必要です。

 ものごとをまえに進めるために、現在と過去をつなぎなおす力。それが「訂正する力」です。

 このような主張に物足りなさを感じるひともいるかもしれません。日本はリセット願望が強い国です。明治維新と敗戦の二度にわたって国のかたちを大きく変え、急激な成長を成し遂げたという成功体験をもっています。

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東浩紀

東浩紀

東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

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