だからいまでも多くのひとが、長い停滞を突破するためには、ゼロからの再出発がいいと考えています。東日本大震災のあとには、これで日本社会はがらりと変わる、「災後」という新時代に入ると言われました。最近でも社会学者の宮台真司さんが「加速主義」なる言葉を紹介し、人気を博しています。「日本はいったんとことんだめになって、そこから再生すべきだ」という主張が、一部の若者に人気のようです。
けれども、それは単純な考えだと思います。そもそも国の成長は永遠に続くものではありません。あるていど豊かになったあとは、豊かさの「維持」を考えなければならない。そしてなにかを維持するとは、古くなっていくものを肯定的に語ることにほかなりません。それが成熟した国のありかたです。
これは個人の話に置き換えれば、老いを肯定するということでもあります。リセットしたいというのは、要はもういちど若くなりたいということです。この国の人々は年を重ねることについて肯定的に語る言葉をもっていません。だから老いについて単純で暴力的な語り口が横行しています。「延命治療をやめるべき」だとか「老人は集団自決するべき」だといった議論が、定期的に現れます。
世界的に人気があるサブカルチャーの分野でも、主人公は若者ばかりです。さまざまな挫折や失敗を経験し、もがき苦しみながら生きていこうとする中高年が描かれることはあまりありません。