実際に起こった障害者殺傷事件を題材にした小説を、石井裕也の脚本・監督で映画化した「月」。宮沢りえは、障害者施設で働き始める作家の堂島洋子を演じる。作り手、演じ手としての「覚悟」を語った。AERA2023年10月16日号より。
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――原作は、辺見庸の同名小説。10代の頃から辺見の作品に多大な影響を受けてきたという石井裕也が原作を大きくアレンジし、映画化した。プロデューサーは、映画「新聞記者」で知られる故・河村光庸。目を背けたくなる現実、そして人間の心の闇に深く切り込んだ作品だ。ともに走り抜けていくうえで、二人はどんな声を掛け合っていたのか。
石井裕也(以下、石井):初めてお会いしたときは、作品とは必ずしも関係のない話も含め、多種多様なお話をさせてもらいました。この作品をやるんだ、という宮沢さんの覚悟はすごく強いものだったので安心していましたし、改めて意思を確認し合うといった野暮なことはしなかったです。宮沢りえさんという俳優を信じきっていたのだと思います。
宮沢りえ(以下、宮沢):私は、河村さんと一緒にお仕事をしてみたいという気持ちが最初にありました。日本に様々な映画があふれるなか、社会に対し憤りを持って作品を送り出している姿にすごく感動していましたし、河村さんとお仕事をしたいという思いが芽生えた時点で、自分のなかに「覚悟」はあったのだと思います。
「月」のお話をいただいたときは、正直、戸惑いもありました。なぜこれをつくりたいのか、という河村さんと石井監督の気持ちを100パーセント理解し、作品に挑めるだろうかという不安はあったけれど、「この題材ならやりません」と断ったら一生後悔するだろうなという思いもありました。役者として、社会に対しメッセージを発することができる作品に参加できるのはとても貴重で、光栄な機会だと感じました。
監督にお会いしたときは「ちょっと取り憑かれているな」と思うほどの真剣さが伝わってきましたね。どれくらいの時間をかけ取材し、執筆をされていたのか、私は正確にはわかりませんが、「憤り」を持っていると感じられた。だからこそ、信じることができたのだと思います。初めてお会いしたとき、長い時間、話しましたよね?