石井:そうですね。自分の作品に出演する俳優とそんなにも長い時間話をしたのは初めてでしたが、「次の作品でも、同じことをしてみようか」という僕自身の意識変革にも繋がりました。「こういう芝居をしよう」といった話ではなく、お互いの人生を合わせるというか、結びつける作業として必要なことだな、と。
――石井には「裏の世界を描くためには、表の世界で活躍されてきた方に中心にいてほしい」という思いがあったという。
石井:宮沢さんは、僕も6歳のときから映画「ぼくらの七日間戦争」を通して知っている、言わばスーパースターなわけです。
宮沢:(笑)。
石井:今まで歩まれてきた道のりは、表層的な部分だけを切り取れば、「憧れ」として映るのかもしれませんが、同時に我々が体験したことのない、稀にみるような経験もされてきた。それこそ「表の世界にいる」ということのつらさであり、悲しさであると思うのですが、そのような方が世界の裏側に目を向け、飛び込もうとする勇敢さにまず圧倒されました。
「情緒を乱してほしい」
俳優の凄みはいくつかあると思っていますが、大きくは「目」と「呼吸」だと思っています。とくに、宮沢さんの息遣いは現場でも強く感じられるものでした。その場にいらっしゃるだけで「すごいな」と思わずにはいられない方が、自分がコントロールできない精神状況に陥りながらも強い呼吸をしている。それ自体ものすごいことだ、と。
宮沢:演出の際、監督は「もっと情緒を乱してほしい」「歪んだ情緒で」とおっしゃっていましたね。そう言っていただいたことで、台本に書かれていたト書きが理解できるようになった気がします。
最近は、私の人生のなかでも情緒がとても安定している時期だと思っているのですが、その言葉を受け「まともな情緒のまま台本を読んではいけないんだ」と思ったことを覚えています。正直、クランクイン前には感情の流れが正確には理解できていなかった。「どうやってこの感情に持っていくのだろう」という感情の階段のようなものは多くの場合、台本を読めば理解できるのですが、今回はまったくわからなかったんですね。