北海道は再生可能エネルギーのポテンシャルで日本一といわれる。寿都町と隣の蘭越町にまたがる地域には大阪ガスのグループ会社が運営する風力発電所がある(撮影/堀篭俊材)
この記事の写真をすべて見る

「核のごみ」最終処分場をめぐる調査の受け入れを拒否した長崎県対馬市。一方、北海道では寿都町と神恵内村で調査が続いている。処分場誘致に手を挙げた背景には、疲弊する地方が抱える事情がある。AERA 2023年10月16日号より。

【図】「核のごみ」最終処分地選定の流れがこちら

*  *  *

 のちに寿都町民による情報公開請求で明らかになった議事録をみると、文献調査をめぐる議論が始まったのは20年冬のことだ。片岡春雄町長(74)が「資源エネルギー庁を呼んで地層調査の勉強会をやりたい」と言い出したのが発端だ。

 このとき寿都町は、のちに文献調査を同時に始めた神恵内村など近隣の町村と一緒に、洋上風力発電を沿海に誘致しようと国に要望していた。

 片岡町長は同年2月の全員協議会の場で、「情勢は厳しい」と報告。「エネ庁で一番困っているのは核のごみの問題。国の弱いところを私はビジネスとして考えている」

 当時は、処分場をつくるために原子力発電環境整備機構(NUMO)ができて約20年たっていた。しかし、どの自治体も手を挙げない状態が続いていた。つまり国に「貸し」をつくり、洋上風力の誘致を有利に運ぼうというのが町長の算段だった。

 寿都町は1989年、全国の自治体で初めて風力発電所に参入した。船出に有利な「だし風」を事業に生かしてきた。国が音頭をとる洋上風力発電に関心を持つのは当然ともいえる。

「一番じゃないとだめだ」。2020年8月の全員協議会で、片岡町長は全国で初めて文献調査に応募することにこだわっていた。「町に対する国の忖度が一番と二番じゃ違う」

 その3カ月後の11月に寿都町で文献調査が始まった。町とNUMOは情報共有のため町内で「対話の場」を定期的に開く。寿都では17回を数える。

 町内でペンションを営む槌谷和幸さん(74)は、町長の指名で選ばれた対話の場のメンバーの一人だった。だが、最初の会合に出席しただけで辞任した。「回数を重ねると『理解が深まった』と実績づくりに利用されてしまう」と感じたからだ。

次のページ