タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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故ジャニー喜多川氏による性加害の被害者は現時点で300人以上に及ぶと見られています。被害者には元所属タレント以外の人も含まれます。今後は被害者の確実な救済と再発防止策の実施が不可欠です。日本テレビとTBSの報道番組による放送局の内部聞き取り調査では、ジャニー喜多川氏の性加害の裁判を「芸能ゴシップだから」と報道現場が軽視していたことや、バラエティー番組などの制作現場で大手芸能事務所を怒らせたくないという心理が働いていたことが明らかになりました。それが結果としてタレントへの人権侵害を看過・助長していたことが窺えます。10月2日放送のBS-TBS「報道1930」の中で、ジャニーズ性加害問題当事者の会の志賀泰伸氏は「放送局の内部調査ではなく第三者委員会の設置を」と提言しました。
ジャニーズ事務所だけではなく、これはメディア企業と芸能界全体の問題です。現在もハラスメントや性暴力の被害を言えずにいるタレントは他にもいるかもしれません。報酬が正当に支払われない、契約書を交わさないというケースも。事務所を辞めるとメディアで起用されなくなる、芸名の使用ができなくなるなどの事例もあります。同番組内で国際情報誌フォーサイト元編集長の堤伸輔氏は「今ある芸能界の問題は技能実習生の問題と似ている。移籍ができない、身分証(芸名)を取り上げられる、報酬の透明性がないなどの類似点がある。技能実習生の問題は国際社会からずっと奴隷労働とまで言われてきた。極論すれば、タレントや俳優を奴隷労働に追い込むことをテレビ局と芸能事務所が共同で行ってしまったとも言える」と指摘しました。事件の検証だけでなく、芸能界で働く人の権利が守られ、安全に働けるよう、メディア企業と芸能事務所は体質改善と透明性の高い新たな制度作りを急ぐべきです。
※AERA 2023年10月16日号