横尾忠則 《2022-05-01》 2022年 キャンバスにアクリル 162.1×130.3 作家蔵

 昨年、横尾のアトリエに伺った際、制作中の「寒山拾得」を見せていただいた。その1週間後、再度アトリエに行くと、以前見た絵の雰囲気は残るものの、色彩が全く違う絵を示しながら、「前、描いてた絵がね、こんなんなってしもうたんですよ」と。「描いた」のではなく、あくまで「絵がそうなった」のである。

 昨年の入院後、医師から描くことを一時止められたが、解禁されたら絵への飢餓感から1日に3点描くこともあった。

 キャンバスの求めに応じて描き、来るものに常に従うというスタンス。「それこそ禅的で面白いね」と横尾は話す。

100にしばられない

 さて、今回の展覧会のタイトルは「寒山百得」展である。それについて横尾は、

「拾(十)より、百にした方が面白い。それで(絵の)サイズは100号。それを100点描くと自分に負荷をかけたんですよ。アスリートのようにね」

 しかし、10点くらい描いた時点で「寒山拾得」を描くことに飽きてしまった。

「でも、飽きてしまえば期待も欲望もないし、目的もない。何と競うこともない。何を描いてもいい。自由のキャパシティーが拡大した。これこそ、寒山拾得の心境とちゃうんかな」

 そして描いた「寒山拾得」の数は結果的に102点となった。

 100ではないのか──。

「100という枠を決めることが自らをしばる。だから100を通過点に切り替えた。これからも続くことをにおわせるのもいい」と笑う。

 108点描いて煩悩の数にする、などとは考えなかったのかと問うと、「それでは意味を持たせてコンセプチュアルアートになって、自由を束縛する」と一蹴された。

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