横尾忠則 《2022-12-01》 2022年 キャンバスにアクリル 162.1×130.3 作家蔵

無邪気で自由に生きる

 われわれは分別の世界に生きているが、寒山拾得は無分別の世界にいる。自由という概念も作り上げられたものであり、私たちは枠の中の自由を求めているだけだ。しかし、寒山拾得は枠の外にいて、広大無辺な宇宙的な自由を獲得するのだ、と諭された。

「こちらの世界は寒山拾得の世界ではない。死後の世界は寒山拾得の世界に近い。死後の世界で初めて寒山拾得的理念に出合うのだと思います」

 横尾が書いた小説『原郷の森』に、谷崎が寒山拾得に興味を示す「俺(横尾)」に助言する場面がある。

「自分の分身だと思えばいいよ。Y君のなかにあるマヌケな部分もカシコイ部分もカッコイイ部分も自分の中の寒山拾得と思えばいい。自分の中のあらゆる要素が寒山拾得なんだ」

 話を聞くうちに、横尾のアトリエが「原郷の森」に包まれていくように感じる。

「展覧会を見に来る人も寒山拾得であり、そこに自分の姿を見つけるかもしれません。何を感じるか、感じないかは、あなた次第です。自らのなかの無邪気な寒山拾得と出合えればそれでいいんです」

 そう話す横尾の姿に寒山拾得が重なった。いや、横尾忠則こそが実は寒山拾得そのものなのかもしれない。(文中敬称略)

(ライター・鮎川哲也)

AERA 2023年10月16日号