約2年前、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが、人権問題が指摘されている中国・新疆ウイグル自治区の綿を使用しているのではないかと疑われた。米国の税関でユニクロのシャツの輸入が差し止められたのに続き、仏検察は人権団体の告発を受け、人道に対する罪の隠匿の疑いで現地法人が捜査された。
ドイツでは今年1月、企業活動における人権や環境への悪影響を予防・是正する義務を課す「サプライチェーン・デュー・ディリジェンス法」が施行された。違反した場合は原則、80万ユーロ(約1億2500万円)以下の罰金が課せられる。罰金が科せられた場合は公共調達の入札手続きから最長3年以下の期間除外されるという。
浮き彫りになった日本の冷淡な姿勢
さらに人権関連の法制化は先進国で急速に進んでおり、人権問題がビジネスに極めて大きなインパクトを与えることが認識され始めている。
一方、日本はどうか。
「政府も企業も人権尊重について、結局は非常に冷ややかであることが今回、浮き彫りになりました」(菅原教授)
8月4日、国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会が会見を開いた。喜多川氏の性加害問題について、政府が透明な捜査権を確保し、被害者救済に手を差し伸べるべきだとコメントした。それに対して、松野博一官房長官は「作業部会の見解は法的拘束力を有しない」と述べた。
作業部会の調査は現在も継続中で、最終的な報告書は来年6月に人権理事会に提出される予定だ。
菅原教授は指摘する。
「企業のなかには、ジャニーズ事務所に問題解決を継続的に働きかけることなく、契約を解除するところが出てきてしまった。政府は何もしない。このようなビジネス環境の国に進出することを、そのような国の企業とのビジネス取引を、外国企業はリスクとらえる可能性があります。被害者の救済が何よりですが、このような人権軽視によって失うものの大きさに目を向けるべきだと思います」
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)