「契約満了をもって解除」を発表したアサヒグループホールディングスや、「所属タレントを起用した広告やプロモーションの中止」を打ち出した花王は、製品の原料の調達にあたって取引先企業で人権侵害がないか、厳しくチェックしているという。
「ところが、作った商品を売っていくというビジネス活動のなかで、広報や宣伝については『人権尊重』が重視されてこなかったわけです」
と菅原教授は指摘する。
タレントの契約は更新しないが、同事務所の取り組みを見据えたうえで新規契約を考える、という対応であれば、まだ理解できる。
ところが、「ジャニーズ事務所のタレントを起用しない」(キリンホールディングスや日本生命など)と決めた企業もある。
「それが問題の解決にどう結びつくのでしょうか。被害者の救済はまだこれからで、潜在的な被害者もいる。問題が可視化されれば契約が解除されるなら、声があげられない。SDGsのテーマは『誰一人取り残さない』なのに」
と菅原教授は嘆く。
「結局『人権尊重のため』と言いながら、人権尊重はほとんど顧みられず、経営リスク的な判断でタレントを切ったと見えてしまいます」
人権侵害で巨額の罰金も
9月7日の記者会見は、海外でも大きく報道された。CNNやBBCなどの国際放送のほか、米ABCやNBCなど地上波テレビ局が報道したことから、関心の高さがうかがえる。
国際的に児童虐待に対する視線は非常に厳しい。ジャニーズ事務所と長年取引を続けてきた企業は、海外とのビジネスのなかで不利益を受ける可能性がある。
9月の会見でジャニーズ事務所が喜多川氏の性加害を認めて以降、取引先企業が一気に動いたのは、国際的に企業の評判が低下することを恐れたこともあるだろう、と菅原教授は推察する。