―東京五輪では強豪のブラジル選手を相手に、銀メダルを獲得。快挙だったが、決勝で破れた直後は、砂浜にうなだれた。
五十嵐:「金メダルの近くまで行ってたのに取れなかったというのが、すごく悔しかったですね。でも親戚や友人の喜ぶ顔が目に焼きついて、『銀メダルでもすごいことなんだ』と後から気づきました。でもやっぱりメダルを見ると悔しさが蘇って、自分を駆り立てるエネルギーになっています。もっと強くなって『あのとき金を取れなくて良かった』と思える日が来ると思います」
―五輪翌年には、国際サーフィン連盟の世界選手権で優勝。ワールドサーフリーグでも世界ランク5位と、自己最高の結果を残した。しかし、手応えを聞くと意外な答えが返ってきた。
自分の足元を見る
五十嵐:「シーズン最後にランキングはつくけれど、その結果に自分の実力が繋がっているとは思わないようにしています。自然相手のスポーツなので、自分のパフォーマンスが良くても、成績に繋がるとは限らない。そこが難しさ。だから僕はいつもシーズンが始まる前に自分に問いかけるんです。『君は世界チャンピオンになれる?』と。そして『はい、勝てます』と答えることができたなら、もうそれは優勝と同じ価値がある。世界王者らしいサーフィンをしているんだと自分が納得できていれば、必ず世界一へと続いていきますから」
―自然を相手に悟った、王者の心構えである。その心がブレることはないのだろうか。
五十嵐:「『stay in the moment』という言葉をノートに書くんです。落ち着いて、自分の足元を見る、というような意味。アスリートって、つい先のことばかり考えてしまう。東京五輪が終わった時も、次の日にはパリ五輪にむけたインタビューを受けていたくらい(笑)。先の計画や結果を考えすぎないよう、自分を諭すことも大切にしています」
(構成/ライター・野口美恵)
※AERA 2023年10月9日号より抜粋