演劇を中心にドラマや映画で、「思いついても誰もやらないようなこと」をやり続けてきた(撮影/松永卓也)
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 劇作家・演出家/ヨーロッパ企画、上田誠。劇団「ヨーロッパ企画」は、今年25周年を迎える。大学在学中に上田誠と仲間2人で旗揚げしたが、初期のメンバーはほぼ変わらない。小さなころからさびしがりの上田は、友達といつも一緒にいたかった。面白いものを作れば、友達が集まると気づく。上田の書く脚本は、劇団員の個性が生かされる群像劇。理系で論理的な思考で生み出されるコメディー劇の求心力は、高まる一方だ。

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7月末、京都では、劇団「ヨーロッパ企画」の第42回公演「切り裂かないけど攫(さら)いはするジャック」の稽古が始まっていた。脚本と演出を手がける上田誠(うえだまこと・43)は、机の上に俳優の顔写真を貼ったマグネットを並べ、背中を丸めるようにして舞台上の動きを考えている。

 数人の俳優が前に出ると、上田は「みんなで永野さんに質問してください」「ここは後から野次(やじ)を飛ばして」などと指示を出していく。その指示を聞き、俳優はアドリブで演技する。犯人と疑われた貴族の珍妙な答えにみんなが噴き出し、ミートパイ屋が威勢よく群衆を蹴散らすと稽古場がドッと沸いた。上田も体を揺らして笑っている。笑いが起きるたびに場の緊張が解け、俳優の集中度がだんだん高まって、3時間の稽古は後半になるほど熱を帯びていった。

 一般的には、俳優は台本をもとに稽古をするが、ヨーロッパ企画の場合、稽古が始まっても台本はない。上田の台本作りが少し変わっているのだ。タイトルを決め、チラシを作り、舞台美術を考え、配役とストーリーを決めたら、俳優とエチュード(習作)をしながら台本を書いていく。

 上田が場面設定とセリフの内容を俳優に伝え、実際のセリフと動きは俳優に自由に演じてもらう。ここでいろいろなパターンを試し、俳優の言葉や個性を取り入れた台本が出来上がる。

「役者から出てきた言葉には、その人が体重を乗せて言えるような強さがあります。演劇は僕が考えたこと、役者が考えたこと、スタッフが考えたことが合わさって世に出る。みんなでワイワイ作ることで、一人では思いつかないことが出てくるんですよ」

スター俳優がいなくてもファンがファンを呼ぶ人気

 1998年、同志社大学の演劇サークル「同志社小劇場」に所属していた19歳の上田と先輩の諏訪雅(47)、永野宗典(45)がヨーロッパ企画を立ち上げた。京都を拠点にコメディーを作り続け、今年25周年を迎える。突出したスター俳優がいるわけでもないのに、ファンがファンを呼び、人気は年々上昇している。

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