
「これまでも、何の言葉を置くか、私は演劇の稽古場において、厳しく、揉(も)まれながら生み出してきました。今回は特に、作家として書きたいだけの言葉なのか、本当にその人物に必要な言葉なのか、厳しくジャッジするようになりました」
神木隆之介の演じる槙野万太郎が、祖母・タキと対峙(たいじ)するシーンがある。実家の造り酒屋を継がず、上京し、植物学の道へ進むことを決めた万太郎は、自身を育ててくれたタキに、こう告げる。
「おばあちゃんの孫と生まれて、ほんまに、ほんまに、幸せでした」
だが、タキはこう言い返す。
「わしは、許さんぞね! わしは、決して、おまんを許さんぞね。許さんぞね……!」
長田はこの台詞(せりふ)に込めた真意を語る。
「タキの、万太郎への最後の贈り物。『許さない』という言葉があるからこそ、それでも万太郎は出ていく。一生をかけて植物学の道を行く決意を万太郎にさせるんです。同時に、肉親としての愛情が深く伝わります。最大限の励ましの言葉です」
タキ役を演じた松坂慶子(71)は、振り返る。
「『許さんぞね』って言った時、感情があふれ出して、涙が流れ、驚きました。私自身、孫を送り出すなんて経験もないのに『何で、不思議』って。嬉しく思いました。脚本の言葉が琴線(きんせん)に触れるのですね」
長田の脚本が届くと、松坂はまず読み、書いていく。そして録音し、相手の台詞も録音して覚えた。このシーンの撮影チェックの際、松坂は思わず「大変だけど、良い本ねえ」とつぶやいた。すると、現場スタッフから、どっと笑いがおきたそうだ。
長田は言う。
「あらすじを考える時は、筋しかわかりません。書き始めてみて、登場人物の目に乗り移りながら書いていく。書きながら、視界に何が見えているかがわかると、初めて台詞が書けるんです」
東京都大田区の馬込に生まれ育った。中高一貫校の普連土学園に進み、物語を書くことを将来の夢とした瞬間があった。それは湯本香樹実による小説『夏の庭 The Friends』を再読した時のことだ。少年たちと老人との、世代を超えた交流。最初に読んだのは中2の頃だったが、高3で読み直し、長田は泣きじゃくったという。
「祖父の死など、いろんな経験を経たからでしょうか。こんなに泣いたことないほど、大泣きしてしまった」