岡本真帆(おかもと・まほ)/1989年生まれ。高知県・四万十川のほとりで育つ。2022年に第一歌集『水上バス浅草行き』(ナナロク社)を刊行(写真:本人提供)

 二つの仕事の「二刀流」で成功している人も少なくない。会社員として働きながら歌人として活躍する岡本真帆さんもその一人だ。岡本さんの時間管理や仕事術に迫った。AERA 2023年10月2日号より。

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「生活していく上での基盤が二つある、という感じでしょうか」

 こう話すのは歌人の岡本真帆さん(34)だ。昨年3月に発刊した初の短歌集『水上バス浅草行き』が現在8刷、累計2万部のヒットを続けている。短歌以外にも文芸誌のエッセイなど文筆の仕事を幅広くこなす一方、クリエイターのマネジメント会社で企画やPRなどを担当する会社員でもある。

「会社員としても歌人としてもお金をいただいていますが、どちらがメインという意識はありません」

 歌人と会社員の顔をその都度、使い分けている実感はない、と岡本さんは言う。

「短歌って、自分にとって心地よい生活をしている時に副産物のように生み出せるもの。なので、(短歌の創作は)生活していることと等しい、ライフワークのような感覚です」

 一方で、一日の中で多くの時間を割く会社員の仕事も、人間関係や心身の安定を保つ上で欠かせない、岡本さんにとっての「心地よさ」の一部。だからこそ、限られた時間を有効に使って創作活動が続けられている。

共通するベース

 短歌に興味を持ったのは大学生の時。雑誌「ダ・ヴィンチ」で歌人の穂村弘さんが連載している短歌募集のコーナーで、読者が投稿する個性豊かな作品に触れ、「自分の言葉で表現する」営みに魅力を感じた。実際に短歌を創作したのは社会人になって数年後。前職の広告会社でコピーライターとしてクライアントの要求に応じるうち、自分の作品を創作したい、という欲求が高まった。

 だが、コピーライターのスキルを磨けば短歌も創作できる、というわけではない。ただ、岡本さんは応用できる点を見いだした。それは「思考の段取り」ともいえるステップだ。

「例えば、短歌のお題から具体的なイメージを深めていく時、1人でブレーンストーミングするようにモチーフの断片をノートに書き出します。このスタイルは広告のコピーを考える時に商品の魅力や特徴を表現する言葉を書き出していたのと同じです」(岡本さん)

 これは岡本さんの創作手法の一つにすぎない。しかし、表現のモチーフを探すアプローチは短歌と広告コピーで共通するベースもある、というわけだ。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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