春風亭一之輔・落語家
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 落語家・春風亭一之輔さんが連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今回のお題は「茄子」。

「秋茄子は嫁に食わすな」とよく言います。いや、普段の会話で言ったことはないけども。「秋の採れたての茄子はめっちゃ美味えずら! そんな大事なモノ嫁なんかに食わしたらもったいねえずらよ! だから嫁には死なねえ程度に粟とか稗とか食わしておけばいいずらっ!!」……と、だいたいこんな意味でしょうか。ワオ! 時代錯誤! 男尊女卑、家父長制、嫁いびり、パワハラ、モラハラがこのフレーズに凝縮されてい茄子。もはや、ナスハラでござい茄子な。

 たしかに秋茄子は美味い。菅井きん(イメージ)の言うこともよくわかり茄子。でも秋じゃなくても美味いから、茄子。エブリタイム、茄子・イズ・デリシャス。つめて、デリ茄子。

 茄子は名バイプレーヤー。たびたびいろんな顔をして食卓に現れます。でも「客を選ぶ」というのか、なんとも言えない渋さがあり、大人はともかく子どものハートをむんずと鷲掴みにすることはまずありません。私が茄子を美味しく感じるようになったのはここ10年くらいですかね。

 そもそも茄子なんて子どもの頃は好きでもなんでもなかったなぁ。あってもなくてもいい存在。地味なんだよな、茄子。ニンジン、ピーマン、セロリほど子どもの逆鱗に触れるようなとんがった味でも、見かけでもない。嫌いになる理由も見つからない、常に視界の外にありました。まず色が紫ってなによ? 小料理屋の女将の着物か。真野響子か。子どもは女将の勝負着物なんかに興味ありません。

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「自分には『お肉さん』なんかもったいないっす」