己が交わる食材を引き立て、また自分は何色にも染まり、そしてその料理によってさまざまな食感、味を大袈裟に演じることなく淡くさりげなく披露してくれる。名優であり、名演出家……それが茄子。

 人生は茄子のよさがわかってからが本番。茄子のおかげで私の人生の幕が開いたといっても過言ではないでしょう。今まで食べてきた茄子に心から謝りたい。ごめんなさい、茄子。こんな美味しいものを「食べるな」なんて嫁が可哀想。酷いよ、菅井きん(あくまでイメージ)。

 なんて、思ってたら「秋茄子は嫁に食わすな」には別の説もあるんだと。茄子には身体を冷やす成分が入ってて食べ過ぎるとよくないので嫁に食べさせてはならん……という嫁を想った親切心なんだそうだ。なんだよ! いい姑じゃんか、菅井きん(もちろんイメージ)!

 ま、なんでも「ほど」でしょう。今年の秋も嫁と一緒にほどよく茄子を味わい茄子。茄子よ、なんて君はデリ茄子っ!

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!

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