たとえば、認識、言語理解、思考、意思決定、推論のような大脳皮質の各高次機能はわずか数十個程度の領野のネットワークで実現されており、人工知能で再現できる可能性を示すような研究成果もある。理解可能論と不可能論の決着のつかない論争をよそに、理解可能論の仮説検証は続く。
2019年12月に開催されたAI国際学会のトップカンファレンスNeurlPS2019で、ニューラルネットワークとディープラーニングの研究で有名なヨシュア・ベンジオ氏が、「From System 1 Deep Learning to System 2 Deep Learning」というタイトルの講演を行い注目を集めた。タイトルにあるシステム1は、記憶や知覚のような直感的な「速い思考」、システム2は論理的、意識的にじっくり考える「遅い思考」を指す。
脳には「速い思考」と「遅い思考」があることを提唱したのが、認知心理学者でノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンだ。従来のディープラーニングはシステム1のような「速い思考」を得意としていたが、これだけでは人間の知能レベルには及ばない。システム1が一定レベルに達したことで、システム2の道筋ができ、両方のモデルが出来上がれば、人間の脳の情報処理にかなり近づく。
人間は身体を持つからこそ知性が存在するという考えもあるが、たとえ人間の脳を完全にコピーできなくても、人間のような知能を持つ機械が精緻になり、「速い思考」と「遅い思考」が一対で成長することは現実的である。
人間の脳を模すことで人工知能が一通りの「人間の脳の長所」を吸収すれば、人間化の第一フェイズが終わる。さらに人工知能が進化し、人間に近づくことに目処が立つと、次は超えていく第二フェイズに入る。人工知能の人間化においては、人工知能が人間を超える超知能に到達したとき、人工知能にとっての人間化はマイナス要素、足手まといになりかねない。人間の知能から習得すべきものがなくなるにつれ、人工超知能は独自の成長を目指すことになる。
《『人類滅亡2つのシナリオ AIと遺伝子操作が悪用された未来』(朝日新書)では、制度設計の不備が招く「想定しうる最悪な末路」と、その回避策を詳述している》