イメージ写真
※写真はイメージです(Getty Images)

人工知能(AI)が目覚ましい速度で進化を遂げている。リスクが指摘されることも多く、今年5月には、米オープンAIの最高経営責任者(CEO)や研究者らが、「AIが人類を滅亡させるリスク」について声明を発表したことが話題となった。北海道大学客員教授の小川和也氏は、著書『人類滅亡2つのシナリオ AIと遺伝子操作が悪用された未来』(朝日新書)の中で、「想定しうる最悪な末路」を示す。その前段階として、人工知能の人間化について言及している。本書から一部抜粋して紹介する。

【写真】ニューラルネットワークといえばこれ

*  *  *

人工知能が〝人間化〞した先に何が起きるか

 人工知能にとっては、自らが生成したものに対して人間がどのように反応するかということも学習材料であり、学習が進むほど人間の要素を取り込み、さらなる人間化が進んでいく。そして、人間の脳を模すという試みも進んでいる。言わば、コンピュータの人間化だ。

 人間の脳の神経を模したニューラルネットワークを発展させたディープラーニングなど、人間の脳の働きを人工知能に反映する研究は勢いを増している。Transformerを含むディープラーニングは人間の脳が行う処理をモデル化し、その精度を上げていく。人間の複雑な脳機能を解明する動きは加速度的に進んでおり、既に神経間の情報伝達を担うシナプスを模した人工シナプス(マサチューセッツ工科大学のムラト・オネン氏らによるプログラマブル抵抗器と呼ばれるもの)のような成果物も生んでいる。この人工シナプスは、人間のシナプスの1万倍の速度で機能するというのだから、実用化が進めば驚異的なパフォーマンスを発揮する可能性がある。

 脳は極めて複雑で、人間に理解することは不可能だと考える人は多い。「人間の脳を模す」と言っても、現実的ではないとみなされる場合もある。しかし、脳は意外と単純で、理解可能だと考える研究者もいる。その前提に立ち、脳の各器官を分解して人間のような知能を持つ機械を作り、脳全体のアーキテクチャに近づける研究は進んでいて、既に脳の知能に関係する主要器官の計算論的モデルは出揃いつつある。各器官の間の連携モデルが整えば、脳全体の機能を再現することも視野に入ってくる。

著者プロフィールを見る
小川和也

小川和也

北海道大学産学・地域協働推進機構客員教授。グランドデザイン株式会社CEO。専門は人工知能を用いた社会システムデザイン。人工知能関連特許多数。フューチャリストとしてテクノロジーを基点に未来のあり方を提唱。著書『デジタルは人間を奪うのか』(講談社現代新書)は教科書や入試問題に数多く採用され、テクノロジー教育を担っている。

小川和也の記事一覧はこちら
次のページ
「人間化」を終えた先にある未来