他にも会社経営者が資金繰りに苦しみ、一家心中が相次いだ際、記者団に「その種の事件が起こるのは当然」とコメントしたこともある。
こうした発言をみると、やはり「貧乏人は麦を食え」は本心から出た言葉である可能性が高い。実際、当時は“庶民の敵”というイメージも強く、「池田勇人、鬼よりこわい、ニッコリ笑って税をとる」という戯れ歌が流行したという。岸田首相の大先輩も「重税」で激しく批判されていたわけだが、岸田首相はまさに「貧乏人は麦を食え」という感覚を引き継いでいるのかもしれない。
政治アナリストの伊藤惇夫氏は「宏池会と言えば、吉田茂の打ち出した『軽武装、経済重視』の路線を継承し、国家予算においては財政規律を重視する派閥として知られています」と解説する。
「1975年、大蔵大臣だった大平正芳さんは赤字国債の発行に追い込まれました。彼は筋金入りの財政規律論者でしたが、当時は第1次石油ショックが猛威を振るい、日本経済は戦後初のマイナス成長に陥っていました。その際、大平さんが『赤字国債発行は万死に値する』と発言したのは有名なエピソードです。ただ、その意味では、果たして岸田さんは宏池会の伝統を受け継いでいるのか疑問もあります」