さらに困ったことは、私たち国民の心にもこの“妖術”が及んでいることだ。
10年前には議論されることさえなかった敵基地攻撃能力、防衛費倍増、憲法9条改正、原発新増設などの問題に賛成する層が拡大している。安倍氏よりさらに過激な政策を岸田氏が異様な勢いで進め、日本の国の形が「軽武装・国民経済重視」から「重武装・軍事最優先」に変容しつつあるのに、国民がそれを本気で止める動きが見えない。
それは国民の一定数が、安倍的なものに支配されるようになってしまったからという面もある。一度支配されると、他の意見には拒絶反応しか示さなくなる。議論の余地がなくなり、国民の間に深刻な分断がもたらされた。
一方、安倍的なものに支配されず、これに抵抗する人々もたくさんいる。しかし、実は、その人たちの心の中にも、「どんなに頑張ってもどうせ止まらない」という諦めの気持ちが広がっているのではないか。市民のデモなどの抗議活動は、明らかに力が弱くなっている。これもまた、“妖怪の孫”の支配ではないのか。
この支配を終わらせるためにはどうしたら良いのか。有権者はそのことを考えながら、春の選挙に臨んで欲しい。
古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。自身が企画プロデューサーを務めた映画『妖怪の孫』の原案『分断と凋落の日本』(講談社)が4月発売予定
※週刊朝日 2023年4月7日号