「革新自治体」でプレッシャーを

内田:地方自治には国会議員の影響力はあまりないんです。大阪市長だった平松邦夫さんが2期目の立候補をした2011年の出陣式に呼ばれたことがあります。最初にスピーチしたのが後援会長、次が市の特別顧問をしていた僕でした。そんなに早い順番でいいのかなと思ってたんですけれど、衆参両院の国会議員の先生方は全員壇上に呼ばれて、名前を紹介されて、一礼して終わりでした(笑)。たしかにあれだけ数がいると、一人ずつ話させたら、それだけで終わってしまうから。

白井:近年、国会議員が首長になるケースが増えていますよね。たとえば、衆議院議員から世田谷区長になった保坂展人さんはもう4期目です。区政でいろいろな実績を上げたのだからまた国政で暴れてほしいと言う人もいますが、本人は全くその気がないそうです。人口約91万人の世田谷区の区長のほうが全然やり甲斐があるからと。

内田:そうです。党執行部の指示通りに立ったり座ったりするだけの「陣笠議員」だったら、やっても面白くないでしょう。それよりは地方自治体のトップにいた方がやりたいことができる。

白井:もうそこにしか希望はないかも知れない感じがあります。思い起こせば、70年代に革新自治体が増えてきた時、日本が社会主義体制になるのではないかというムードが流れました。

内田:革新自治体の下に4500万人の住民が暮らしていると言われた時期もありました。

白井:だから自民党はプレッシャーを受けて、結局、老人医療費の無償化など革新自治体の政策をぱくっていくわけです。ちゃんと福祉をやらないと転覆させられてしまうぞと。つまり、地方自治体が良い政治をやり始めると、国のレベルでも良い政治を行なうことを強制されてくるわけですね。

内田:でも、政治に関しては、ほんとうに先行き何が起きるか予測が立ちません。高校生ぐらいの時から、日本の政治はこの先こうなるんじゃないか、ああなるんじゃないかといろいろ予想してきましたが、みごとに一つも当たりませんでした(笑)。そういうものなんですよ。政治は複雑系ですから、何か一つ事件が起きると、全部がらっと変わってしまう。たとえば、習近平が急死したら……。

白井:大騒ぎになって、大混乱です。

内田:あるいは訴追されて窮したトランプが支持者に「銃を持って立て」と言い出して、ワシントンDCで銃撃戦が起きることだって……。

白井:あまり冗談にはなりませんね……。

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内田樹

内田樹

内田樹(うちだ・たつる)/1950年、東京都生まれ。思想家・武道家。東京大学文学部仏文科卒業。専門はフランス現代思想。神戸女学院大学名誉教授、京都精華大学客員教授、合気道凱風館館長。近著に『街場の天皇論』、主な著書は『直感は割と正しい 内田樹の大市民講座』『アジア辺境論 これが日本の生きる道』など多数

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