自分の死に方を、ある程度選択できる時代になってきた。とはいえ、大災害の映像を見ると、「そんなことを考えても……」という気分になる。しかし、著者は言う。「考えたくなかった結果として、例えば大震災で原発に押し寄せた“想定外の高さ”の津波を防ぐ高さの壁は作られ」なかった、と。
 本書は、1000人以上の死を看取った緩和医療医が「死ぬときの決断」について綴っている。たとえば、「自分の病気について知るべきか、否か」「かかりたいのは遠くの名医か、近くのヤブ医者か」「最後に傍にいてもらいたいのは誰か」「延命治療を受けるか、否か」。
 それらの命題に、著者は断定的に答えることはしない。死を見つめた患者とのやり取りを通して、私たちにどんな選択ができるのか、そのヒントを与えてくれる。かといって深刻な話だけでなく、妻と愛人二人に看取られた60代男性の話などは、病院スタッフのやり取りに、思わず笑ってしまう。
 誰もが一回しか経験できない「死」だからこそ、私たちは、想定外の高さも見越した「防波堤」を作る必要がある。

週刊朝日 2015年5月1日号